18年前に始めたレストランは味の良さと温かい雰囲気で人気
山田ラビアブ(トイ)さん
チョンブリー県パタヤ出身。1983年来日。
埼玉県越谷のタイ料理店「マンゴスチン」のオーナー。
お待たせしてごめんなさいね、ご飯は食べましたか? じゃあ食べてからインタビューにしましょうか(筆者、ランチメニューのパッカパオをいただく。絶品! )
28年前、私は日本人の主人とタイで結婚しました。当時彼は新しい空港の設計をするため、タイに赴任していたんです。27年前、タイでの仕事が終わったため、一緒に日本に来ました。その時、私は妊娠3ヶ月でした。
タイにいた頃、私は会社員をしながら日本語学校に通っていました。でも実際に日本に来てみると、学校はあまり意味がなかったですね。タイでは簡単な会話しか習わないので、生活の中では全然役に立たない。子供が幼稚園になってから日本語学校に入りましたが、通うのが大変で結局1年で辞めました。掃除、洗濯、3人の子供たちの食事……、その上、主人は海外出張が多くて、1ヶ月の間に1週間は出張。一番下の子が3才の頃には、ウズベキスタンに4ヶ月も出張したこともありました。ですから、2番目の娘はタイで私の両親や姉妹たちに育ててもらいました。1人で子育てするのは本当に大変でしたが、周りの日本人のお友達がよく助けてくれました。
今から18年前、一番下の子が幼稚園に入ったのをきっかけに、このレストランを始めました。この周辺にはタイレストランがなかったんです。元々私はじっとしていられない人間なので、何かしないといけないと思ったんです。家にいて、ぼーっとしているとか、テレビを見ているとか、考えられない!
今、窓側に座っているご家族は、独身時代から通ってくれているお客さんで、今では子供たちを連れて一家で来てくれています。ここには、緊張する厳しい雰囲気じゃなくて、温かい雰囲気があるんだと思います。お客さんも、私を友達みたいに思ってくれるんです。
私はいつも店にいるけれど、この頃ちょっと忙しくていられないことも多い。去年、タイに帰ってしまった友人から焼き鳥工場と4つの店舗を譲り受けたので、その会社の仕事もしているんです。でも、体が忙しいのはOK。もし体が疲れたら寝たら治るから。でも心が疲れたら、寝るだけでは治らないでしょ。だから、いつも自分自身を忘れないように気をつけています。もちろん主人や子供たちがネガティブにならないよう、気をつけてきました。今、日本にいる子供たちは2人とも大学の建築学部で学んで、お父さんと同じ道を歩んでくれています。日本人の子供はタイの子供とは違って、やりたいことがわかっていて自立していますね。それはすばらしいなあ?と思って。迷惑をかけないように自分の道を進んでいこうとする。私は、子供が学生のときはアルバイトしないできちんと勉強しなさいと言いました。アルバイトばかりして留年していてはもったいないですから。仕事は卒業してからすればいいのだから。子供たちはそれをきちんとわかってくれました。だから私は今も仕事に打ち込めるんだと思います。
スタッフは家族と同じ信頼して自由に仕事をしてもらう
今やトイさんの家族のような、マンゴスチンのスタッフたち。トイさんの右に座っているのが、17年間この店で腕を振るっているイェンさん。
うちのコックさんはオープンの頃からずっと働いてくれています。彼が作る料理はタイと同じ味だから、辛いものが苦手な人は、辛い料理はオーダーしないようがいいかもしれません。本当にタイと同じような辛さで作っているから。材料もケチをせずにたっぷり使って、丁寧に作っています。どんな料理も出来たてが一番おいしいから、オーダーが入ってから作ります。料理数は普通のお店よりも多いけれど、作り置きはしないし冷凍もしません。だからちょっと時間はかかるけれど、全部おいしい、すごくおいしい。うちのコックさんは本当に料理が上手なの。タイスキもすごくおいしい。タレがおいしいの。コカレストランと同じ味ですよ。ランチのデザートも日替わりで手作りしていて、それを楽しみにしてくれるお客さんがたくさんいます。中には茨城や横浜や東京など、遠くからわざわざマンゴスチン目当てに来てくれるお客さんもいらっしゃいます。本当にうれしいですね。ここはラオスの大使もよく来てくださいます。
(18年もお店を続ける秘訣は? の問いに)人を育てることが大事。きついことないかな、自由がないとか不満を持っていないかなと気遣って、お互いに幸せに仕事ができる環境をつくるようにしています。もちろん、ダメなことはダメと言うけれど、その人を信じて、自由にやってもらうようにしています。従業員を下に見るのではなく、家族のように接しています。どっちも疲れる、そうすればお互いに幸せだから。だから、ここのスタッフは私が損すると大変と考えてくれる。だから私は店にいなくても大丈夫だし、彼らは私が何を好きかとか、全てわかってくれています。スタッフは4人で、そのうちコックさんは3人。コックさんが多いから、店は無休にして、交代で休んでもらっています。(お店は)休んでいられないですよね。家賃もあるし。お客さんもいつ休みかなと心配しなくていいし。私に日本のことや日本人の考えを教えてくれるのは、主人。そしてもう1人、80才のおばさまがいるんです。私のことを娘のように大事にしてくれて、いろいろなことを教えてくれるんです。だからマンゴスチンはちゃんと営業していける(笑)。タイ人はね、軽いの。甘えん坊。日本人は責任感が強いですよね。もちろん、タイ人に責任感がないわけではないけれど考えが軽い。でも、自分は正しいことをしていきたいなあと思います。
人に上下はないということを教えてくれた両親に感謝!
店内は気取りがなく、家庭的な雰囲気。訪れた多くのお客さんがトイさんと親しげにおしゃべりする光景を見ると、この店がいかに地元に根づいているかがわかる。
社長業というのは難しいものです。社員の考えなど、全てが見えていないといけないし、自分自身が真面目でないと社員は信用してくれないし、ついてきません。社長がわかっていないと、社員に教えることはできませんから。これはレストランだけでなく、どんな仕事でもね。
私がこういう考えを持っているのは親譲りだと思います。私はパタヤの出身で、実家は従業員30~40人抱える農家でした。父は「人間に上下はない、皆同じ」という考えで、決して私を特別扱いすることはありませんでした。食事のときは、家族も従業員も一緒に同じ物を食べました。だから私は今もどんな人が相手でもつき合います。商売や仕事で差別することはない。どんな人でも友達になれる。そういう風に教えてくれた両親には感謝しています。出身地のパタヤはいいところですよ。港や工場が多く、経済的に発展していますし、海も山もあるので新鮮な食材が豊富。おいしいものが食べられるところです。だから、私は味にうるさくなったのかもしれませんね。私自身もすごく好奇心が強くて、知りたい、知りたい、食べたい、食べたいと思っています。洋服とかにはあまり興味ないけれど、おいしいものを食べたいという思いは強い。ぜいたくなの。自然でいい素材じゃないと食べられない。悪いクセですね(笑)。
以前、私はタイマッサージのお店を経営したこともあります。でも、忙しくて自分が店を見ていられなくなったので辞めました。自分が見られる範囲でないと質が落ちてしまうのでやめたほうがいい。だから、みんなにマンゴスチンのチェーン店をやらないの? と言われますが、やる気はありません。やったとしても、味がおいしくなくなってしまうこともわかるし。ただお金儲けのためではなく、おいしいものを皆さんに食べていただきたいという思いだけなんです。
本格タイ料理のお店 マンゴスチン
埼玉県越谷市越ヶ谷1-3-26光ビル1F
048-963-7439
11:00-15:00、17:00-23:00
無休
http://www.thai-mangosteen.com/