レックさん
カンチャナブリー県出身。25才で来日。
西川口のタイマッサージ店「ミスタイランド」オーナー
マッサージ店で大事なのは確かな技術と細かなサービス
私が友達の誘いで日本に来たのは、25才のとき。故郷はカンチャナブリーだけど、生活は大変だった。本当はヨーロッパの国に行きたいと思っていました。でも、実際に日本に来たら、町がキレイでびっくりしました。空気はきれいだし、日本料理もお米も果物もおいしくて。そう、それから生ビールもね(笑)。日本に来たときはちょうど冬で、雪が降ったのもびっくりでした。
最初に働いたのは茨城のタイスナック。ママはやさしかったし、友達もいっぱいできて、すごくよかった。日本が大好きになりましたね。当時の仲間とは、6?7年もの間、一緒に住みました。それから日本人の旦那さんと出会って結婚し、川口に住み始めました。でも、当時川口にタイ料理店はなかったし、友達もいないし、家に閉じこもっているだけになってストレスが溜まるように。その生活があまりにもさみしくて、お店を出したい!と思い始めたんです。そして自分でタイパブを開店しました。あの頃は景気がよかったからね、毎日毎日、お客さんいっぱい来てくれて楽しかった。10年やりましたが、2人目の子供ができて店に出られなくなったのをきっかけにパブを閉店しました。
タイマッサージ店「ミスタイランド」を始めたのは9年前です。パブの仕事はお酒もたくさん飲むでしょ。だんだん自分の体が大事だと感じるようになっったんです。タイマッサージは体にいいからね。お店を作ったのは自分の健康のためでもあったんです。
お店をやっていて一番うれしいのは、お客さんの笑顔を見たとき。そしてまた来てくださったときですね。そのために私はがんばるし、いつも店はきれいにしています。お客様は神様だから心から大事にして、毎日がんばっていれば、景気が悪いとかそういうことは関係なくなります。私は20年間、西川口でお店をやってきたけれど、どこでやろうと一緒です。自分ががんばっていればお客さんは来てくれるものです。そして必ず助けてくれる友達が現れます。私は、なぜタイ人が「日本人は厳しい」というのかわからない。私が会って来た日本人はみんないい人ばかりだから。私がストレスだらけで、でもそれをなかなか言えなくて、お酒をたくさん飲んでいた時期、助けてくれたのは日本人の友達でした。本当にありがたいです。その人たちの名前は口に出しては言わないけれど、私の心の中に入っています。
私は日本が大好き。嫌いなものは何もないですよ。食べ物も、ヨーロッパよりもどこよりも日本のものがおいしいです。人間、いつ死ぬかわからないから、食べたいものを食べる。ケチはしない。別に贅沢するわけじゃなくて、そのとき食べたいものを食べるの。子供の頃、貧乏で我慢ばっかりしてきたから、今は我慢しないの。
それぞれの道を歩む子供たち
私には子供が4人います。上の子2人はタイ人と結婚しているときの子供で、タイで生まれ育ちました。下の2人は日本人の旦那さんとの子供。結局日本人の旦那さんとは離婚してしまったので、私は1人で一生懸命どんどん働いて、1人で子供たちの面倒を見てきました。タイで暮らしていた一番上の娘には学生ビザを取得させ、日本の美容学校に入れました。私が日本に来たとき、学校には行けなくて、自分の力でここまでがんばって来ました。だから娘にはどんどん勉強してほしかった。勉強すれば自分の力で働くことができるから。そのためのお金は惜しくない。もちろん、家族に近くにいてほしいという気持ちもありましたが。娘は、昼は学校に行き、夜は店を手伝ってくれました。
そのうち、娘にチェコ人の彼氏ができたんです。私は心配で仕方なかった。まだ早いと思ったし、本当に相手がいい人かどうかわからなかったから。でも娘は「私は子供じゃない。自分のことは自分で考える」と言いました。娘はちゃんと考えられる年齢になっていたんですね。去年、娘はその人とチェコで結婚式を挙げました。今はプラハでタイマッサージの店を3軒経営しています。いろいろ心配したけど、本当によかった。学校に通わせているとき、娘は「どうしてお母さんが決めた学校に行かなくちゃいけないの!」と反発していたけれど「お母さん、いろいろ教えてください」、今はそう言ってくれます。私はいろいろ言うから、そのときはただうるさいだけだけど、後からわかってくれるものです。そうそう、結婚式に行ったとき、ヨーロッパ旅行もすることができました。フランスのパリやスペイン、スイスとか、行きたいところ全部! 私の長年の夢が娘の結婚で叶ったんです。
2番目の子は、18才のときに来日しました。学校には行かず、タイレストランなどで働いてきました。今は結婚して2人の子供もいます。将来自分でレストランを出したいと思っているみたいだけど、私からしたらまだまだ。もっと我慢しないとね。でも家族ができたことで、しっかりしなくてはいけないという、自覚が出て来たみたいです。
下の2人の子供は12才と10才。私は甘やかすのが嫌いだから、自分のことは自分でやりなさいとしつけています。私は1人でお母さんとお父さんの役割をしなくちゃいけないから、厳しいですよ。子供たちは私のこと、怖いと思ってるみたい(笑)。
大事なのはハート がんばればどこでも生きていける!
私はすごく強い性格です。何があっても絶対に泣かないでがんばる、男にだって負けない。そういう自分がいます。若いときは短気でわがままで、ヤクザみたいだった。ストレスもいっぱいあったし。でも、若いときはいろいろあっていいんです。今は変わりましたよ。人生は楽しいもの、それがわかるようになりました。今はストレスがなくて、生活できるだけのお金と健康があれば、他にほしいものは何もありません。
これからのことですか? 子供たちも大きくなったし、来年はのんびりと休憩したいです。自然いっぱいの山や川に行って、のんびり歩くのも好きですし。人間は車じゃないから、休憩も必要です。もちろん仕事は大好きだし、いろいろなアイディアがあるから、少し休んだらそれに向かってがんばる。私は、人間生まれたら、何かしないといけないと思う。何もしないなんてもったいない。
夢はいっぱいあるけど、来年は、娘と一緒にタイ料理店をオープンしたいです。今プラハにはタイマッサージ店は30軒くらい、タイ料理店は20軒くらいあります。どの店もオシャレだし料理もおいしいですよ。ヨーロッパの人はあまり辛い料理を食べる習慣がないので、辛さは控えめですが。チェコの言葉はわからないけれど、それは問題じゃないの。人間は口もある、手もある、目もあるんだから。ハートがあれば大丈夫。もちろん、チェコでレストランを始めても、日本をずっと離れることはないと思います。それから、いつかはリゾートを作りたい。それはお金儲けとかは関係なく。お友達がファミリーで来たときなんかに泊めてあげられるようなところを作りたい。タイには日本人がまだ知らない、いい所がいっぱいあるから、それを教えてあげたいです。
日本人は忙しくていつもがんばっているけれど、ストレスがたまったり、問題があるときは私のお店に来てほしいです。そして、何よりも家族の温かさを大切にしてほしいと思います。子供がかわいそうだからね。でも、私はもう結婚はいいです。1人でのんびり気楽に暮らしたいな(笑)。