染谷ノンヌットさん
1979年バンコクで染谷茂さんに出会い、翌年来日し結婚。茂さんとともにタイ料理レストランサワディーを開店。茂さん曰く、結婚生活を長く続けるコツは「ひらすら忍耐」だとかタイ料理店の醍醐味はお客さんの「おいしい」の一言
ノンヌットさん(以下ノ):私は27歳のときに日本に来ました。それから30年。私の人生、タイよりも日本にいる年月の方が長くなりました。日本に来て、御茶ノ水の日本語学校に入学。久米川から御茶ノ水まで通勤ラッシュの中、通いました。朝の電車はいつもものすごい混雑で、顔が歪むくらい大変だった(笑)。学校ではあまり何も覚えられなかったね。宿題も全然できなかったし。主人は「あなたの頭はピーマンだね~」って言ったけど、私は「ちがーう!」って。ピーマンは中に種があるけれど、私の頭には何も入ってないから風船だよって(笑)。
学校は、授業料が高くて半年で辞めました。昔は本当に高かったの、学校も今みたいにたくさんなかったし。その後は、主人の仕事についていくようになりました。主人の仕事は地方をまわる店頭販売でした。その時のほうが日本語を覚えられました。周りにタイ人はいないし、自分が日本語を覚えないと、一日中一言も話せなくなる。たくさん商品があったから、それを覚えないと仕事にならないから、一生懸命覚えました。移動する車の中では、主人が色々なことを教えてくれました。日本語、文化、食べ物、習慣……。覚えられないことは何回でも。毎日、毎日。車の中から見えたもの、ぜ~~~んぶ、説明してくれました。私にとって一番いい先生は主人です。
タイ料理レストラン「サワディー」をやろうと言ったのは私です。料理をするのが大好きだし、日本人にタイ料理を食べてもらいたかったから。レストランを始めて今年でちょうど20年です。私が日本に来た頃、タイ料理店はホントに少なかった。今はたくさんあるけれど、ずっと続けている店は少ないね。だからうちが20年続けていることはすごいと思います。
茂さん(以下茂):うちはレストラン以外にケータリング事業もやっていて週末には関東を中心にさまざまなイベントに出店しています。お店はスタッフに任せて、ケータリングは僕と女房、ケータリング専門のスタッフがやっています。イベントって働くのは週末だけだと思うでしょ? 料理の仕入れ、仕込み、準備、後片付けをすると、休みなんて全くありません。今年は年末までイベントのない週は1回だけです。
ノ:20周年のお祝いをしようかなと思っていたけど、時間がなくてできないですね。レストランは商売だけど、私はお金儲けのためにやっているわけじゃない。じゃあ何のためかというと、お客さんの「おいしい」という言葉のため。仕事は大変で疲れるけれど、その一言があれば、疲れが飛んでしまいます。本当に一番うれしい言葉です。
故郷に恩返しするための年に一度のボランティア活動
ノ:毎年12月、バンコクタイムスのボランティア※に参加するためにタイに帰ります。参加しなかったのは、久米川店をしていた3年前だけ。最初、主人は文句を言いましたけど、今は何も言わない(笑)。タイの田舎はまだまだ貧しいです。子どもたちはお金もないし、洋服もない。靴もないから裸足です。私はお金持ちではないから、持って行けるお金や物はわずかだけど、少しでも自分の祖国にお返しがしたいと思っています。向こうで焼きそばやのり巻きなど、日本料理を作ってあげると、子どもたちがとても喜んでくれるの。喜ぶ子どもたちの笑顔を見たときは本当にうれしいです。自分の目の前にいる人が笑ってくれると、私はその人の2倍うれしくなるし、幸せになります。「お金があれば幸せ」という人もいるかもしれないけれど、私はそうじゃない。幸せはどこにも売っていない。そこのスーパーに行って「幸せください」っていっても売ってない。幸せは自分で作るものなんです。
最近、ケータリングサービスで新しいメニューを始めました。カノム・クロック、食べたことありますか? カノム・クロックは、私が12歳のとき、始めて屋台で売ったメニュー。私の両親は私が子どもの頃に離婚しました。家にお金がなくて、私はお姉さんと一緒にカノム・クロックを売る商売を始めたんです。朝5時から8時までカノム・クロックを売って、それから学校に行きました。20バーツ儲かれば、それがその日の夕飯代になるんです。(そのときも、お客さんはおいしいと言ってくれましたか?という問いに)タイでは、朝ご飯替わりにカノム・クロックを食べます。おいしいから買うとか、そんな気持ちではないの。私も生活がかかっていたから、お金がほしかった。ただそれだけ。当時は、材料のもち粉なんて売っていなかったから、臼で挽くところから始めるんですよ。今は何でも手に入るから、若い人は信じられないかもしれないけど。
私たち夫婦は2人でひとつどちらが欠けてもお店はなかった
ノ:私には4人の子どもがいます。2人は日本、2人はタイにいます。今、息子のワンロップとお嫁さんはサワディーで働いています。2人は代々木のタイフェスティバルで出会って結婚したんですよ。ワンロップの息子の太陽は今年、小学校に入学しました。孫は全部で8人います。一番上の孫は今、高校生。イベントの時には手伝ってくれるようになりました。
将来の夢ですか? 今の2つのお店はみんなに任せて、自分のためだけのお店をやりたいですね。(久米川店の店内を見渡して)こんなに大きいのは無理! だってお客さんが見えないもん。タイラーメンだけとかおすすめ料理だけとか、そういうのをやるお店がいいな。「ママ、今日は何がおすすめ?」「今日は魚だよー」ってお客さんと話しながら料理したい。サワディーがオープンしたばかりのとき、私が1人で料理を作って主人がサービスしていました。それと同じような小さなお店がいいですね。
茂:つくづく思うけれど、タイから日本に来て暮らしている女性は、言い方は悪いかもしれないけれど、普通じゃない(笑)。本当に強いです。僕がもし、結婚して日本を離れ、タイに住めと言われたら、絶対無理だと思いますからね。
ノ:タイ人と日本人の夫婦、離婚する人も多いけれど、私はずーっと主人1人。けんかもしますよ、毎日する。タイから1人、日本から1人。全然違う人同士が一緒に暮らすことは大変なこと。でも、旦那さんが怒って火になっているとき、私も火になったら大変。火事になっちゃうでしょ。だからそんなとき私は水になる。そうしたらけんかは大きくならない、火事にならない。主人の火が収まって静かになったら話しをするようにするんです。でも、毎日けんかしていても、主人だけいない日があったりすると寂しい。もう長いから、もちろんラブラブではないけど、隣に誰もいないと寂しいんです。1人の人と幸せを作り上げるのは、時間がかかるんですねえ。一晩だけ2人一緒にいたから幸せなんてことはないよ。
私、いつも思っている。私がいなかったら、サワディーはない。主人がいなくても、やっぱりサワディーはない。2人が一緒になったからこそ、サワディーはできたんだって。
久米川店 東京都東村山市栄町2-21-8 徳田ビル2階
TEL: 042-395-7802
営業時間 : 昼 AM11:00~PM3:00 夜 PM5:00~PM11:00
定休日: 月曜日(祝日は営業)