エメラルド三角地帯の入口。周辺には風光明媚な滝も多い。
この湖の先はカンボジア領。国境警備兵が望遠鏡を使って監視していた。
国境地帯の山からタイ領を見下ろす。
ここが「エメラルド三角地帯」。あまりのすたれように一同がっかり。
「危険 進入禁止」の表紙はいたるところに掲げられていた。
出先で食べるタイの田舎料理。これもまた楽しみのひとつである。
「黄金の三角地帯」という言葉は聞いたことがあるかもしれない。タイ・ラオス・ミャンマーの国境が接する地帯のことで、最近は観光地として有名だが、以前は麻薬の密輸地帯としても知られていた。それなら「エメラルドの三角地帯」はどうだろう。ウボンの南にあるこちらはタイ・カンボジア・ラオスの三国が国境を接している場所で、「黄金」に対抗するかのように着々と観光開発を進めているらしい。
しかし「黄金」の国境はメコン川とその支流で分割されているため誰の目にもわかりやすいが、「エメラルド」に川はなく、ただそこには山と原野があるだけだ。観光客なんて呼べるのだろうか。
偶然にも近くの村に泊まることができたため知人の車で出向いてみたが、行く手の道は未舗装で細く、鬱蒼と取り巻く周囲の木々には「軍の管理地・進入禁止」の看板が下げられている。行き交う車どころか人の気配もなく、本当にこんな場所に観光地があるの?……と思いながら1時間ほど走っていたら着いたけど、そこは苦労には見合わないほどさびれた場所だった。雑木が生い茂っていて景色はほとんど見えないし、サーラーと呼ばれる記念施設は管理が悪くて傷んでいる。山頂だったらまだいいが、谷間の途中なので三国を一望できるわけでもない。なにかおもしろい発見があるかと茂みを行けば、そこには「危険 進入禁止」の立て看板が待っている……。
要するに行ってもがっかりするだけの場所なのだが、もともと国境なんて人が勝手に決めたもの。目でわかるものでもなく、実際に地面に線が引かれているわけでもないから、行って楽しいものではないのだ。
だったらいっそのこと国境なんてなくしてしまったらどうだ……なんて言うのは気楽すぎるお話。だいたい私だって隣の家との境界にはブロック塀を立てているし、野良猫が敷地に入って糞をすれば、いくら用後に砂をかけて行っても腹が立つ。それが国家的レベルの苛立ちになったと思えば、国境のない世界が存在しえないのは容易に想像できる。
隣の家から侵入する犬や猫の心配をしているような人間に、国境のない世界を訴える資格はない。だからいまは、荒れた観光地に行った苦労を嘆くだけにしておこう。