祭りの日の朝食。普段はもっともっと質素。
観光も買い出しもピックアップトラックに乗って行く。
牛の胆汁の苦みがきいたクセのあるスープ。
解体中の仔牛。これを見て食欲が出ない人は暮らせない。
農家のキッチンはこんな感じ。
タイの農村での暮らしにあこがれる日本人は多い。田舎育ちの私は特に魅力を感じないが、土地も持たず庭もないマンションや賃貸アパートで生活している人たちの中には未開発の自然の中で暮らすことを夢見ている人も多い。だから私がタイの田舎をあちこち旅し、民家や農家で寝泊まりした話をしたりすると、ひどくうらやましがられたりする。
「私もぜひ行ってみたいです」
「1ヶ月くらい住んでみたいものだ」
そんなふうに、よく言われる。しかし、理想と現実は大きく違うもので、楽しくのどかに見える田舎の農村暮らしも、実際に経験すると、けっこう大変なものだったりするのだ。はたしてみんな、そんな暮らしに耐えられるのか? なかなか難しいと思いますけどね、僕は。
たとえば田舎のバスルームにはシャワーがない。かわりに大きな水瓶かコンクリート製の水槽があって、そこから水をすくって浴びる。洗顔も洗髪も歯磨きもすべて同じ水を使うが、地下水をくみ上げていることもあれば雨水を溜めただけだったり、さては近所の川から運んで来たものだったりして、使用するのに勇気が必要なこともある。
また、田舎の家のトイレは薄暗く汚れていることが多く、家によってはトイレそのものがない。便器をトタン板で囲んだだけのトイレもあって、当然ながら周囲は隙間だらけ。他人の目が気になる人は怖くて入れないかもしれない。
しかし、田舎で一番ないものはプライバシーだろう。どこに行っても注目が集まるし、なにをしても村人から「なにしてる?」と訊ねられる。これが実はけっこうなストレスになるのだ。自然に囲まれて静かな日々が過ごせると思ったら、実際は一挙手一投足を常に見つめられる衆人環視の毎日だったというわけで、これはかなり疲れる。
娯楽に乏しい田舎では、非日常をもたらす外国人は格好のエンターテインメント。他人から注目を集めることに慣れている人なら十分暮らしていけるけど、そんな人は、そもそも田舎に行きたいなどと思わないはず。
ああ、なんという矛盾!