今回は、タイ大使館で日本人配偶者の日本における財産の相続についてお話ししたことをまとめました。相続の方式は日本の方式に従うことになります。
日本の法律では、第1に亡くなった方の意思を尊重し、第2に法律で定められた割合を基に相続人同士で話し合い、遺産を分割することになります。この話し合いは全員の合意が必要になりますので、1人でも合意できなければ裁判所が関与することになります。
遺言状がなかったケースは相続人全員の合意が必要ですので、タイ人配偶者のほかに、たとえば亡くなったご主人と前妻との間の子供などがいれば、その子供全員と話し合いをします。この話し合いは法定相続分(日本の法律で定められた分配率)を基に話し合うのが一般的です。ただし、1人でも納得がいかなければ合意はできませんので、時には自分の法定相続分よりも少なくても合意をした方が、裁判所までいくケースを考えると得策な時もあります。
法定相続分を具体的にするための例を挙げましょう。たとえばすべての財産を1として、相続人が妻1人、子供3人の場合は妻が2分の1、残りの2分の1を3人の子供で分けることになります。よく聞かれることですが、前の奥さんには相続権はありません。(遺言書があれば別です)。そして、話し合いが成立したら遺産分割協議書を作成します。もし、話し合いが成立しなければ裁判所での話し合いに移行することになります。
ここまでが遺言書がない場合の簡単な流れですが、注意してほしいことはほかの日本人相続人から書類にサインを求められても、その場でサインをしないということです。タイ人相続人にとって非常に不利な条件の合意書である可能性があるからです。
次は、遺言書があるケースです。遺言書に妻であるタイ人妻には一切財産を残さず、すべてを愛人に譲るとあったらどうでしょうか? 先ほど、日本の法律は故人の意思を優先すると書きましたが、それと同時に「原則」とも書きました。ですからこのような場合は原則からはずれ、残された家族を守る法律もあります。
それは「遺留分」制度です。これは本来の法定相続分の半分を相手に請求できるというもので、たとえば1000万円の財産すべてを愛人に譲った場合で、法定相続人がタイ人妻1人の場合、本来は1000万円すべての権利があるので、その半分の500万円を相手に請求することができます。ただし、一定期間を過ぎると時効によりその権利は消滅してしまいます。
今回覚えておいてほしいことは下記の点です。
①遺言書がない場合は相続人全員の合意がいる。その際、目安として法定相続分があるので、その数値を基に協議し合意書を作成する。それでも合意できない場合は裁判所に申し出る。
②遺言書があればそれを尊重しなくてはならないが、配属者である自分に一切相続させないという内容の遺言書が出てきたら、遺留分という制度がある。またこの制度には贈与および遺贈があったことを知ったときから1年、相続の開始から10年の時効もある。
③相続とはマイナスの財産、つまり借金があればその借金も相続しなくてはならない。現金などのプラスの財産よりもマイナスの財産の方が多い場合は相続を放棄した方がよい場合もあり、この放棄も相続の開始があったことを知ったときから3ヵ月(ただし、家庭裁判所に申し出て延期することができる)以内に裁判所に申し出ないと放棄ができなくなり、残された借金を相続人が支払わなければならなくなる。
以上ですが、法律は知っていれば得をし、知らないばかりに不利益を受けることがあります。ここでは書ききれないことはまだまだありますので、万一ご自身の身にこのような不幸が起こった場合は、信頼のできる日本人またはお近くの専門家になるべく早期に相談するようにしてください。